様々な心理療法~内観療法~生き方も考え方も、答えは自分の中だけにある!

今日は心理療法の1つ、「内観療法」についてご紹介いたします。

この内観療法は、カウンセリング現場で広く実施されているというより、

人間関係トラブルや様々な依存症、非行などの問題行動に対して有効なアプローチとされています。

内観療法の考え方を理解するだけでも、日常生活での小さな気付きに繋がるかもしれませんので、

早速、一緒に勉強していきましょう!

内観療法とは?

読んで字のごとく、「内を観る」ですね。

過去を思い出し、自分の内面とじっくりと向き合う心理療法で、自己観察法、自己探求法とも言えます。

自分の過去から現在までをしっかりと見つめ直して気付きを得ることによって、

今ある対人関係の悩みや問題を、自分で解決していくためのキッカケを与えてくれます。

内観療法は、希少な日本発の心理療法で、

吉本伊信さんという方が、浄土真宗仏教の考え方から宗教色を取り除いて、広く一般的に広めたのが、この内観療法だと言われています。

内観療法の効果は?

内観療法の目的は、客観的には辛く大変そうな状況であっても、本人が幸せに暮らせるような心境に転換する、

内省を通して、心のあり方を整えることだと言われています。

悩みやストレスの解消、対人トラブルの解決などに、広く効果があると言われています。

心の中が整理されることで日々のストレスも軽減され、

心の底から自然に沸き上がる感謝の気持ちが生じることで、

自分自身の精神が癒され、幸福度が増し、他者との信頼関係も向上するということでしょう。

現代でも内観療法が出来る施設が全国各地にあり、

刑務所や少年院、企業研修などでも利用されているそうです。

内観療法「集中内観」のやり方とは?

内観療法とは他の心理療法とは違い、日常生活の様々な刺激と断絶された環境で、

しっかりと集中して自分の内面を調べます。

具体的には実施施設にもよるかもしれませんが、

一般的には7日間前後泊まり込みで、静かな部屋の中の小さな屏風の中で過ごします。

携帯電話やインターネットなど外部との連絡や交流は一切断たれた状況で、

朝5時からよる9時までの16時間、寝る時間以外はすべて内観にあてるというものです。

食事は質素ではあるものの温かくバランスのとれたものが3食与えられ、内観しながら食事をするように言われます。

入浴も、他の方の内観の邪魔とならないよう歌うことなどを禁止され、15分などと時間を区切られます。

内観中はリラックスできる楽な姿勢をとっていいとされていますが、横になることは禁止されています。

まさに、断食道場ならぬ、内観道場ですね。

このような厳しい環境であるため、特に最初の数日間は激しい苦痛で途中離脱してしまう人もいるそうです。

しかし、だからこそ7日間という短期間で、価値観が転換したり心が軽くなるといった、大きな効果を得ることができると言われています。

内観療法で調べるテーマとは?

内観療法では、むやみやたらに16時間×7日間、自分でひたすら考えなさいと放置される訳では、もちろんありません。

過去から現在までに特に深く関わってきた人間関係の中で、自分がどのようであったかを詳しく思い出していきます。

具体的には、母親や父親、またはその代わりにあたる対象、祖父母やきょうだいなどの、自分の人生にとって大きな意味をもたらしてきた身近な存在に対して、

「してもらったこと」「して返したこと」「迷惑をかけたこと」の3点について、じっくりと調べていきます。

養育費について具体的な数字を考えたり、嘘や盗みというテーマでも内観を行います。

また、「小学校1年生から3年生までの頃の母親との関係について」など、細かく年代に区切って、内観するテーマを与えられます。

そして、1~2時間ごとに面接者(セラピストや指導者)が屏風までやって来て、

それまでの内観で調べたことを聞かれ、次に内観するテーマを与えられます。

このように、知らず知らずのうちに自分の人生や価値観に大きな影響を及ぼしているであろう身近な存在について、

テレビも電話もインターネットもない狭い屏風の中という非日常の中で、

ゆっくりと時間をかけて関わり方を見つめ直し、客観視していくことで、

これまで気付いていなかった、これまで注がれてきた大きな愛情を改めて認識したり、心の整理が出来るようになるというものです。

母親について内観することの重要性。

内観では、最初に母親との関係性を見ていきます。

母親という存在は、私たち人間の生育史において、とても重要な関係性を持っているからです。

幼い頃に母親と別れ、母親との記憶が無い場合、代わりに生活の面倒を見てもらい、お世話になった人に対しての自分を調べていくことになります。

献身的で自己犠牲的な母親やその代わりになる人物からの愛情を思い出すことによって、

自分の犯してきた罪を後悔し、その愛に報いようと努力するようになります。

内観のはじめに母親についての内観をすることで母性的な愛情に触れられると、

その後の他の人への内観を進める場合にも、母性的な愛情を感じやすいと言われています。

母親についての内観は、集中内観の中でも複数回繰り返される、とても重要なテーマとされています。

このように、「献身的で自己犠牲的な母性愛」を非常に重視しているという点は、大変日本文化らしいといえるところだと思います。

感謝を強要されるもの?

普段の生活の中では、私たちはどうしても「自分がしてあげたこと」ばかりに目を向けがちで、

「自分がしてもらったこと」は簡単に忘れてしまうものですが、

内観療法をすると、多くの人が、してもらったことや迷惑をかけたことに比べ、

して返したことが圧倒的に少ないことに気付くそうです。

特に、養育費を算出させられる場面などでは、

「要は、親に感謝しろと言いたいのか?」と、不快に感じてしまう方もいるそうですが、

内観では決して感謝を強要されているものではありません。

自分の幼少期からの歴史や相手とのこれまでの関係性を具体的に見つめ直す過程で、

自分が愛されてきたこと、気にかけられてきたことを実感し、

相手が自分のために費やしてくれたものの重みを改めて感じることで、

自然な感情として感謝という感情が生まれてくるものです。

罪悪感を重視している?

様々な環境的な制約の中で行う集中内観で、このように自分自身と真っ向から向き合うことは、

ただでさえ精神的な負担が大きいものですが、

相手にしてもらったこと、迷惑をかけたことに対して、自分がいかに返せていないかを考える過程で、

自分の罪や愚かさ醜さを直視し、罪悪感に苦しむ場面があると言われています。

しかし、この罪悪感は悪いものではなく、効果を最大限にするためにはこのような罪悪感という感情が不可欠であるとされており、

内観療法創設者の吉本伊信さん自身も、「罪悪感が深ければ深いほど内省が深く出来ている証拠であり、効果がある」とおっしゃっていたそうです。

そのため、内観をスムーズに進めるためには、「迷惑をかけたこと」を考える時間配分を増やすと、新たな気付きや反省が促され、自己の在り方が見つけやすくなるとされています。

罪悪感との向かい方には気を付けて!

とはいえ、個人的には、この罪悪感との向き合い方には、本当にご注意いただきたい部分です。

私自身も、この心理療法を勉強していく中で、内観項目として決められている「迷惑をかけたこと」という項目自体が、

いかにも罪悪感を促しているように感じました。

しかし、ここで感じるべき罪悪感とは、前向きな気持ちを起こさせる罪悪感であり、

裏を返せば、相手の愛情や献身を再認識するためのツールとなっている感情とも言えると思います。

決して、必要以上に自分を責めてしまう、自己否定的な罪悪感とは違うものだと思うのです。

自分は愛されているし、これまでずっとこんなにも愛されてきた。

自分にはそれだけの価値があるんだと、思えるからこそ生まれる罪悪感であるべきで、

その罪悪感を、これからの信頼関係回復や愛情表現に、前向きに活かす、というものだと思います。

自分のこれまでの自分勝手で自己中心的な態度や考え方に気付き反省するのと同時に、

それでもこんなに多くの人に愛情を注がれ、支えられて生きてきたんだと改めて気付くことで、

自己肯定感が高まり、視野が広がり、心が軽くなれば良いのではないでしょうか。

日本では、ただでさえ他人に迷惑をかけることを申し訳なく思ったり、そんな自分を責めてしまう人が多いと思います。

先にお伝えした感謝の気持ちや、だからこれから頑張ろうという前向きな気持ちに繋がるものであればよいと思いますが、

内観を通して、必要以上に自分を責めて相手に罪悪感を感じ、盲目的に相手に尽くして無理をしたり、

自分の価値を下げるなどの自己否定に繋がったりすることのないように、気をつけていただきたいなというのが、

内観療法を学んでみての個人的な感想でした。

指導者との関係性は重要でなない、あくまで「自分」。

通常のカウンセリングでは、相談者さんとカウンセラーの信頼関係が大変重要になってきます。

相互の信頼関係が成り立ってこそカウンセリングが成功し、症状の改善や問題の解決などの結果に結びつくものです。

しかし、内観療法ではそういった信頼関係は重要ではありません。

自分で自分をしっかりと時間をかけて見つめ直すという、それだけのプロセスです。

なので、初回の説明や導入時、数時間ごとの面談時にも、

共感を受けたり苦労を労ってもらったり、認めて励ましてもらえるようなことは、ほぼありません。

あくまで自分と向き合うためのサポート役として、淡々と進んでいきます。

このような態度に対して、冷たい、頼りにならない、事務的だ、などのネガティブな感想を持たれる方もいるようですが、

これは、相談者さんが指導者に依存せずに、しっかりと自分で自分と向き合うためなのです。

内観療法で重要なのは、あくまで自分自身、それだけなのです。

日常内観とは?

このように、集中内観をやろうと思うと、7日間内観に集中できる時間の確保と、ある程度の覚悟がないと取り組めないものですが、

日常内観という形で、日々の生活の中に内観を取り入れることも出来ます。

本来は、集中内観を終えたあとで、内観の効果を持続させるために、内観を日常的に継続して取り組むためのものとされていますが、

内観のエッセンスや考え方自体は、誰でも取り入れられるものだと思います。

日常内観のやり方は?

時間の取り決めは特になく、1日5分でも構いませんが、30分~2時間程度行うのが良いとされています。

集中内観と同じように、出来るだけ静かな空間で、テーマや年代を区切って考えてみましょう。

「今日は、小学生の頃の父親との関係について考えてみよう」

「今日は、妊娠中の妻との関係について、してもらったこと、し返したこと、迷惑をかけたことを考えてみよう」

など、自分で自由にテーマを決めて取り組んでください。

そして過去のテーマに加えてもう1つ、「今日1日の出来事」についての内観も推奨されています。

日常的に内観を取り入れ、「してくれたこと、して返したこと、迷惑をかけたこと」を意識することで、

相手への感謝の気持ちが芽生えやすくなり、人間関係の改善に役立ちます。

タイミングや頻度、方法について厳密なルールなどありませんので、

思い出すだけ、ノートに書く、録音する、など、ご自身にあった方法で実施すれば良いとされています。

内観療法の注意点とは?

内観療法は、犯罪者の改心や再犯率低下に有効であると言われていますし、国際的にもその効果を認められている心理療法です。

集中内観を何度も受けて、受ける度に心が軽くなり、悩んでいた対象との関係性が改善されたという方もたくさんいるようです。

しかし、内観療法でどれだけの効果が得られるかというのは、他の心理療法と同様に、当然ですが人それぞれです。

その人が、どれだけ自分を信じることが出来るか、内観療法の効果を信じることが出来るか、にもよると思います。

その人の抱えている問題の性質や思考の柔軟性、生まれ育ってきたバックグラウンドによるところも大きいと思います。

自分だけではどうしても視野が狭くなり、凝り固まった思い込みや強い自他否定で、思考の負のループに陥っている方の場合、

自分一人でひたすら自分の過去や現在と向き合うことだけで、

新しい気付きを得て、良い効果を得ることが出来るかというのは、疑問が残りますよね。

罪悪感や自責の念が更に強くなってしまう場合もあるのではないかという懸念もありますが、それを乗り越えたところに、新しい自分の在り方が見つかるという趣旨でもあります。

しかし、その特性があるがゆえに、重度のうつ病患者では、自殺願望を高めてしまう危険性を伴うとされています。

精神疾患を患っている方の場合は、こういった危険性を十分に理解した上で、必ず精神科医の先生に相談してから、実施するようにしてください。

また、はっきりとした自我を持って自己を見つめ直す心理療法ですので、総合失調症やパーソナリティ障害の方への実施にも、賛否が分かれています。

※総合失調症・・・・脳の様々な働きをまとめることが難しくなるために、幻覚や妄想などの症状が起こる病気。

※パーソナリティ障害・・・ 認知や感情、行動や対人関係のパターンが一般的な人とは著しく異なり、そこからさまざまな苦しみや社会活動の問題が生じている状態。

最後に。

内観療法、いかがだったでしょうか。

このシリーズは、様々な心理療法について概要をご紹介するもので、

私が内観療法をオススメしているわけではありません。

私は、浄土真宗から着想を得たとあって、非常に東洋的、日本的なアプローチだなぁという印象を持ちました。

強い罪悪感を促して感謝につなげるという考え方も、理解は出来ますが、個人的には正直、あまり好きなアプローチではありません。

でも、そこから得られる効果やメリットには、納得ができる部分もあります。

私自身も実際に、「相手の良いところに目を向ける」「相手が自分のためにやってくれていることに注目する」ということを日頃から意識していますし、

何か起きた時にまず相手を責めるのではなく、自分を振り返るという姿勢は、とても大切だと思ってます。

また、感謝の気持ちを日頃から忘れないということを、常に心掛け、日々その気持ちを表現していることで、

確かに心が安定し、幸せを感じやすくなり、ストレスが溜まりにくくなっていると実感しています。

なので、そういった考え方自体を取り入れるというのは、私は良いことだと思います。

何事も、完璧に丸ごと取り入れる必要はなく、色々な心理療法や考え方のエッセンスだけど良いとこどりで、

納得のいく、自分に合うものだけを吸収して、自分なりにミックスしていけばよいと思います。

そのために、これからも色々な心理療法をご紹介していきたいと思いますので、引き続きご愛読の程、よろしくお願いいたしますね。^^

いずれにせよ、現代はこんなにインプットに忙しい情報社会です。

私たちは毎日、スマホやテレビや本など、情報を得よう、得ようと、外にばかり目を向けていますが、

ゆっくりと自分の中に目を受け、内側から何かを得よう、気付こうとする時間を意識して取ることも、非常に大切なのではないでしょうか。

内観を習慣的にすることで、日常生活の中で忘れがちな、

相手への感謝の気持ちや愛情を、自分の中で再確認することが出来、

自分の心のあり方や、相手への関わり方が変わってくるはずです。

心のあり方が変わると、世界の見え方が変わります。

あなたも、「こんな方法もあるんだな」「こんな考え方もあるんだな」と知ることで、

これからの人生、いつかどこかのタイミングでこのことを思い出し、何かの役に立つかもしれません。

もしかしたら、集中内観を実施し、新しい人生が始まるキッカケになるかもしれません。

私たちカウンセラーは、色々な考え方や心理療法を紹介することはできますが、

生き方を教えることも、代わりに問題を解決することも出来ません。

どんな名カウンセラーにお話を聞いてもらっても、講演会に行っても、本を何冊読んでも、

最終的には、自分が自分とじっくり向き合うことでしか、答えは見つからないのです。

内観療法という心理療法を知ったことで、

いつかどこか必要なタイミングで、

あなたが自分とより深く向き合えるきっかけになれれば幸いです。

その時には、どんな自分であっても絶対に否定せず、受け入れてあげてくださいね。

神田華子でした。

★★★

様々な心理療法の概念を知ることで、自分の中で心を整理させるための引き出しが増えていきます。

自分に合う方法、心が軽くなる考えなど、自分で良いと思ったところをどんどん取り入れて、視野を広げましょう。

心理療法シリーズその①:交流分析

①自我状態 (自分の中の傾向、心の成り立ち、エゴグラム)

②人生態度 (人生の基本的立場)

③ストローク (相手の存在を認めるすべての言動、ふれあい)

④対話分析 (コミュニケーション)

⑤時間の構造化 (時間の過ごし方) 

⑥ゲーム分析 (不快な心理ゲーム)

心理療法シリーズその②:内観療法

心理療法シリーズその③:森田療法