様々な心理療法~森田療法~不安障害を克服する、あるがままを受け入れる!

不安障害やパニック障害、強迫性障害に対する非常に有効な治療方法として開発された、

「森田療法」という心理療法を聞いたことがあるでしょうか。

先日は、自分をじっくりと見つめ直す、日本発祥の「内観療法」という心理療法についてご紹介しましたが、

今日は、同じく日本発の精神療法である、この森田療法についてご紹介します。

森田療法での主要なキーワードとして、「あるがまま」という言葉があります。

不安や恐れを取り除こうとするのではなく、

人間として当然ある感情として、あるがままを受け入れ、行動していくことを推奨しています。

昨今話題になっているマインドフルネスや、認知行動療法にも通ずるところがあり、

個人的にとても興味深い心理療法だなと思います。

皆さんも、森田療法の基本となる考え方を学ぶことで、

今感じている生きづらさを解消するヒントを得られるかもしれません。

もちろん、不安障害やパニック障害、強迫性障害でまさに今悩んでいるという方は、

是非、最後まで読み進めていただければと思います。

それでは、早速一緒に勉強していきましょう!

森田療法とは?

森田療法は、1919年に日本の精神科医森田正馬(もりたまさたけ※しょうまと呼ぶこともある)により創始された、神経症に対する心理療法です。

神経症とは、今でいう不安障害やパニック障害、強迫性障害などの症状を指します。

本来は、1~3ヶ月という長い入院期間を要する入院療法が主流だったのですが、

入院設備の維持困難や入院期間確保の負担から、昨今では外来での治療が主流となっているそうです。

その変化に伴い、それまでの長く厳しい心理療法というイメージから脱却し、より広く適用されるようになっています。

森田正馬さんご自身が、幼い頃から死への恐怖が強く、パニック発作などにも苦しんでいたといわれており、

そんな実体験を元に作られたのが、この森田療法です。

長い間神経症の症状に苦しんでいたという自分自身の経験をもとに、

それを克服したことで新しい心理療法を開発し、

それが、100年以上の時を経た今でも、日本だけではなく世界中で、

たくさんの人の心を助けていると思うと、本当にすごいことですよね。

現在では、元々の治療対象である不安障害やパニック障害、強迫性障害だけでなく、

うつ病やPTSD、癌患者のメンタルケア、引きこもり、アルコール依存症など、幅広い心の不調にも効果があるとされているそうです。

※PTSD(Post Traumatic Stress Disorder)・・・心的外傷後ストレス障害。トラウマになるような外傷的な出来事のあと、そのことがフラッシュバックされ日常生活に支障をきたすこと。

そもそも神経症はどうして起こるの?

どうして神経症を発症してしまうのかを考える際に、まず森田が着目したのは、

神経症を発症しやすい人の中には、比較的共通した性格の傾向があるということでした。

その性格傾向とはどのようなものかというと、

内向的、罪悪感を感じやすい、小心、刺激に敏感、心配症、完全主義、理想が高い、負けず嫌い、などの性格傾向です。

森田はこのような性格傾向を「神経質性格」と呼びました。

こうした性格的な「素質」に、実際に不安を起こさせるキッカケとなる「機会」、

そして森田が精神相互作用と呼んだ「病因」が重なり合うことで、神経症を発症するのだと、森田は考えました。

精神交互作用とは?

森田が精神相互作用と呼んだものは、一体何なのでしょう。

それは、人が不安を感じた時に身体に起こる不快な反応に、

注意を向ければ向けるほど、その不快な反応が強く出てしまい、

反応が出れば出るほど、更に注意を向けてしまうという悪循環のことです。

たとえば、赤面症の人が、「人前に出るとすぐに顔が赤くなってしまう」と、悩んでいるとします。

赤面症の症状を無くすための方法ばかり調べたり努力をすればするほど、

自分の赤面症という症状に、意識を集中させていることになります。

そして、「今、顔が真っ赤なんじゃないか」と不安になると、余計に顔がほてっているように感じ、

「やっぱり、絶対真っ赤になってる!恥ずかしい!」と、そのことを意識すればするほど、更にどんどん顔が熱くなっていくように感じてしまうのです。

神経症でない方でも、例えば「緊張しちゃダメだ」と思えば思うほど、緊張したりしますよね。

このように、神経症を患う性格的素質を持っている方が、不安を感じる出来事に遭遇した時、またはそれを想像して不安になった時に、

そのことを意識して避けよう、逃げよう、抑えようと、すればするほど、不安が増大する悪循環となり、症状としてより強く出てしまうということです。

「とらわれ」と「はからい」とは?

森田療法では、このように不安に過剰にこだわる態度を「とらわれ」と呼び、

その「とらわれ」から逃げたり回避しようとする行動を「はからい」と呼んでいます。

この「はからい」により、精神相互作用をより強力なものにし、

不快な感情や症状が強くなってしまい、それが習慣化することで、

日常生活がとんどん身動きの取れない、非常に息苦しいものになってしまいます。

感情の法則とは?

森田は、感情とは自然に任せておけば山なりの曲線を描くものだとしました。

徐々に大きくなるが、ピークを迎えるとやがて減少し、やがて消滅するものだと考えたのです。

森田正馬の感情に対する5つの法則をご紹介します。

  1. 感情はそのまま放任すれば山形の曲線をなしひとのぼりしてついには消失する。
  2. 感情はその衝動を満足すれば急に静まり消失する。
  3. 感情は同一の感覚に慣れれば、鈍くなり不感となる。
  4. 感情は、その刺激が継続して起こる時と注意を集中する時に強くなる。
  5. 感情は新しい経験によってこれを体得し、反復によりますます養成される。

すなわち、感情とは人間にとって自然な反応として起こるものであり、

自分で排除したりコントロール出来るものでは無いため、

その当たり前に起こる感情をどうにかしようとするのではなく、

感情を感情のままとして自分の中に受け入れるべきと唱えています。

目的本位とは?

このように、うつろいやすく起伏の激しい感情や気分を基準にして生きるのではなく、

その感情を受け入れた上で、「目的」を重視することを唱えたのが、

森田療法の「目的本位」という概念です。

「目的本位」に対して、気分の良し悪しで物事を判断してしまうことを「気分本位」と呼びます。

例えば、様々な不安症や恐怖症などの患者さんは、

どうしても不安や恐怖を恐れて、

その恐怖心や不安から逃れることを行動の基準にしてしまいます。

これが「気分本位」です。

森田療法では、そのように「気分本位」で行動するのではなく、

その時に達成すべき事柄を中心にする「目的本位」で行動することを推奨しています。

「今日は不安や緊張で具合が悪くなってしまったからダメだった」

「今日は不安がなくて良い一日だった」など、

気分や症状の有無で一喜一憂し、それを行動の基準としてしまうと、

更にそういった気分や症状にとらわれてしまい、

不安が起こらないことが一番の優先順位となってしまいます。

そうすると、必要な行動がどんどんできなくなってしまいますよね。

そうではなく、気分や症状がどうであれ、

「やるべきことができたか」、「必要な行動がとれたか」など、

「目的本位」で物事を判断し、行動すべきだとしているのです。

気分が悪くても目的が達成できればOK、

気分がどんなに良くても、逃げるだけで目的が達成できていなければNGという姿勢です。

恐怖突入とは?

森田療法では、「恐怖突入」という言葉も有名です。

読んで字のごとく、恐怖に突入するということです。

上にも書いたように、不安や恐怖とは、逃れようとすればするほど、

ますます大きくなってどこまでも追いかけてくるという存在です。

なので、不安や恐怖心を感じた時に、逃げようとするのではなく、

恐怖を恐怖として感じながら、あえて恐怖の中に突入していくことが重要だというのです。

これは、認知行動療法と呼ばれる心理療法の中で、「暴露療法」と呼ばれるもの似ています。

行動することで変わることがある。

不安の種類には二種類あります。

実際に不安の対象となるものが実在している状態での不安と、不安発作やその先に起こることを心配して感じる不安です。

この、まだ起きていないことに対して、予想や想像から感じる不安を「予期恐怖」や「予期不安」と呼びます。

目的本意と恐怖突入の考え方で、自分の感じている不安や恐怖に真っ向から立ち向かうことで、

「意外と大丈夫だった」

「自分には出来ないと思っていたことが出来た」

という、大きな喜びと自信を得ることが出来るのです。

これなら出来るかも、という軽い恐怖の対象から、

少しづつこのように小さな成功体験や達成感を感じることで、

より大きな恐怖や不安にも立ち向かえる勇気が増していくのです。

怖いと思っていた不安は、その行動なり場面に飛び込むまでの間が一番大きいのであって、

一旦その中に入ると、その感情は自然に消えていくものなのです。

バンジージャンプは、飛ぶ前がいちばん怖い、というのと同じですね。

こうして、感情という自分の力でコントロールのできないものをどうにかしようと思い悩んだり努力するのではなく、

自分に出来ること、すなわち行動を起こすことで、不安や予期不安を解消していくことが出来ます。

思想の矛盾とは?

森田療法でいう思想の矛盾とは、理想と現実とのギャップのことです。

頭の中で考えている理想(思想)と、実際の現実が相反している(矛盾)という状況を指します。

認知的不協和の記事でもご紹介した通り、こうした思想の矛盾を取り除くためには、

現実に合わせて考え方を変えるか、考えに沿った行動を起こして実際に起きている現実を変えるかの

どちらかを選択することになりますが、

そのどちらも達成できずに、思想の矛盾が延々と続き思い悩むことが、

神経症の症状に繋がると、森田は考えたのです。

「~であるべき」「~であってはならない」という理想が強ければ強いほど、

それとは違う現実のギャップにとらわれることで苦しみます。

感情などのコントロールできないものを知性でコントロールしようとすることも、思想の矛盾に繋がります。

本来は流動的で変化するはずの感情に固執してしまうのも、

「こうでなければならない」という主観的な事実にとらわれ、客観的な事実を認めようとしない、思想の矛盾によるものなのです。

理想と現実のギャップの正しい捉え方とは?

森田療法では、できることとできないことをきちんと分けるように教えられます。

こうありたい自分と、こうでしかない自分。

理想と現実とのギャップというのは、どうしても存在してしまうものです。

そのギャップを、「あってはならないもの」として、

そのギャップを埋めようともがくからこそ、埋められない現実が苦しいのです。

理想の自分から現実の自分を見下ろし、どれだけ差があるかに注目するのではなく、

現実の、今こうでしかない自分からスタートし、今、目の前にあることに目を向けましょう。

今、すべきこと、できることは何か?

それを、勇気を持って、少しづつやるんです。

出来ないことを何とかしようとすることは苦しいことです。

出来ないことばかりに目を向けているから、思い悩むばかりで前に進めないのです。

地に足をつけて、今の現実である自分をスタート地点とし、

地道にコツコツとやっていくことで、ギャップは少しずつ埋まり、理想の自分に少しづつ近付けるのです。

あるがままとは?

森田療法の一番のキーワード、あるがままについてです。

森田正馬自身、幼い頃から非常に怖がりで、パニック障害などの神経症に長いこと苦しんでいました。

そして、その症状を克服するために、様々な勉強をされたそうです。

でも、どんなに勉強しても、努力しても、症状は無くならない。

そして、ある日もういいや、と症状を消すことを諦め、

あるがままの自分のままで、自分のやるべき行動だけに集中したところ、

いつの間にか症状が緩和されていたことに気付いたそうです。

この体験そのものが、森田療法の考え方の土台となっています。

森田療法では、症状の原因を追求しません。

人間の不安や恐怖は、何か一つだけが原因になっているということは無いし、それを取り除くことを目的としないからです。

原因は追求せずに、自分が感じている不安や恐怖を消そうとするのではなく、

ありのままに受け入れることを目的としているのです。

これが、森田療法で最も大切な概念である、「あるがまま」という姿勢です。

不安とは、生きる欲望である。

森田は特に死を恐れていたと言われていますが、それは、その分生きることへの欲望が強いからだと言っています。

不安と生きる欲望とは、表裏一体であると考えたのです。

本来人間は誰しも、よりよく生きたい、人から認められたい、尊敬されたい、健康で快適に過ごしたいなどの、発展意欲を持っているものです。

だからこそ、その裏には、同じだけの恐怖や不安が存在するのは当然なのです。

生きる欲望が作り出す力強いプラスの精神エネルギーは、同時に不安や恐怖というマイナスな精神エネルギーを作り出すことも出来るのです。

このように、物事には常に二面性があり、それは表裏一体の関係であるという考えを、

森田療法では「両面観」と呼びます。

よりよく生きたいと思うからこそ、様々な不安が起きるもの」だとし、

不安とは、健全な欲望の証であるとしました。

そして、こうした欲望も、恐怖や不安も、

人間として自然にあるべき事実として、あるがままを受容する姿勢を、森田療法では促しています。

そうして負のエネルギーを受け入れた上で、その裏にある人間本来の生きる欲望を行動を通して呼び起こし、

建設的なエネルギーを発揮させようという治療法なのです。

最後に。

無理をしない自然体の、あるがままの自分を受け入れる姿勢を目指す森田療法、いかがだったでしょうか。

不安障害等に苦しんでいる人は、発作や気分が悪くなることを恐れて、

「あれも不安だから出来ない」「これも心配だからやらない」と、

自分が出来る範囲がどんどん狭くなってくるにつれ、

日常生活が窮屈になっていくだけではなく、

「こんなことも出来ない自分」という、自己否定に繋がりやすくなります。

本来出来ることや、すでに出来ていることに目を向けることが難しくなってしまい、

出来ない自分を心の中で責めてばかりいる状態というのは、

とても辛く、悲しい状態だと思います。

恐れを恐れのまま感じ、行動してみよう。

不安や恐怖の対象に突入するというのは、実際には、とてもとてもとっても勇気のいることです。

でも、それを回避しようとすればするほど、

その不安や恐怖はどんどん実態よりも大きくなります。

逃げても逃げても、どこまでも追いかけてくるんです。

その感覚は、あなたもきっとよく分かりますよね。

あなたが感じている不安や恐怖の大きさは、もしかしたらあなた自身のこれまでの行動によって、

作り出されたものなのかもしれません。

まずは、簡単な、自分が出来そうなことから始めましょう。

不安や心配、恐怖は誰にでも起こる感情で、すべて取り除く必要は無いことを認めましょう。

恐れて当然の場面では、恐れて良いのです。

人間として自然な反応だからです。

自分が回復するために、何でも利用しよう。

不安や恐怖が強過ぎる方は、薬に頼る必要があると思います。

でも、薬だけに頼って、薬で症状をすべて消し去ろとするのではなく、

あくまで症状を緩和して、自分が行動を起こせる状態まで持っていくため、という意識が大切だと思います。

反対に、薬は絶対に飲まないというこだわりも、持つ必要は無いのです。

「薬だけは飲みたくない」という思いに固執しているとき、

あなたはその考えに「とらわれ」ていると言えるからです。

何か1つの治療法や考え方にこだわるのではなく、

自分の役に立つものは、何でも利用してやろうという意識を持ってください。

薬でも指導者でもカウンセリングでも、なんでも利用し、自分に合うものを取り入れて、

自分なりの回復方法を見つければ良いのだと思います。

「もしも」を考えたら、まず行動してみよう。

「もしかしたら~になるかもしれない」という、

まだ起きていないことに対する不安というのは、その行動をすることでしか解消されません。

「もしも……」と考え、不安になっているのであれば、

今日勉強した森田療法の「目的本位」の考え方を思い出して、

とりあえず、「恐怖突入だ!エイヤー!」と、やってみる。

そんな意識を、心に留めておいてみてはいかがでしょうか。

そんな小さな積み重ねから、

風船のように膨らんだ空っぽの不安や恐怖が徐々に小さく萎んで、

あなたに自信が戻ってくると思います。

人より怖がり?そんな自分のままでいい。

もしかしたら、あなたの性格は、人より不安や恐怖を感じやすい性格かもしれません。

でも、それは、よりよく生きたいという生への欲求が人一倍強いということでもあります。

不安を感じやすい、そんなところも含めて、それがあなたなんです。

そんな個性を持った、あなたのままでいいんです。

森田療法で学んだ「あるがまま」の受容を、あなたも目指してみませんか。

あなたが、不安を受け入れ恐怖に打ち勝ち、

あるがままの自分で、生きる活力を取り戻して輝いている未来を、信じています。

神田華子でした。

★★★

様々な心理療法の概念を知ることで、自分の中で心を整理させるための引き出しが増えていきます。

自分に合う方法、心が軽くなる考えなど、自分で良いと思ったところをどんどん取り入れて、視野を広げましょう。

心理療法シリーズその①:交流分析

①自我状態 (自分の中の傾向、心の成り立ち、エゴグラム)

②人生態度 (人生の基本的立場)

③ストローク (相手の存在を認めるすべての言動、ふれあい)

④対話分析 (コミュニケーション)

⑤時間の構造化 (時間の過ごし方) 

⑥ゲーム分析 (不快な心理ゲーム)

心理療法シリーズその②:内観療法

心理療法シリーズその③:森田療法