不都合な事実を都合よく解釈していませんか?認知的不協和を知って人生に活かそう!
「タバコは身体に悪いのにやめられない」
「痩せたいのに夜中に甘いものを食べちゃう」
「テストで良い点は取りたいけど勉強はしたくない」
こんなふうに、分かっちゃいるけどやめられない、やりたいことはあるけど努力はしたくないこと、ありますよね。
私たちの脳は物事の矛盾を嫌います。
自分の思考と行動が矛盾している時、とてつもなく不快を感じ、無意識になんとかその矛盾を解消しようと働きます。
この、2つ以上の認知や行動が矛盾している状態を、心理学用語で『認知的不協和』と呼びます。
認知的不協和はとても強い心理作用で、私たちの生活のありとあらゆるところで見られます。
今日は認知的不協和について学ぶことで、自分の心の中で何が起きているのかを知ることが出来ます。
どう人生にプラスに生かすことが出来るか、一緒に考えてみましょう。
認知的不協和とは?
上に書いたように、2つ以上の認知や行動に矛盾が生じることでストレスを感じることを、認知的不協和といいます。
そしてこの認知的不協和を解消するために、私たちは2つの選択肢のどちらかを必ず選んでいます。
1つ目は矛盾となっている認知を変えること。つまり思考を変えることです。
2つ目は、矛盾となっている行動を変えることです。
もっと具体的に分かるよう、代表的な例を見ていきましょう。
①喫煙者の例
「タバコは健康に悪い」と分かっている人が、それでもタバコを吸い続けている場合、この2つの認知と行動には矛盾が生じています。
この矛盾による不快感を解消するために、
「タバコを吸っていても長生きする人はたくさんいる」「タバコを我慢するストレスの方が身体に悪い」と思考を変える方法と、
「タバコを減らす」「電子タバコにする」「タバコをやめる」など、行動を変える方法があります。
このどちらかの方法を選択することで、認知的不協和を解消しています。
②ダイエットの例
「甘いものを食べると太る」と思っている人が、食後のコンビニスイーツをやめられないとします。
この場合も、自分が思っていることとやっていることが矛盾しています。
「このプリンは200キロカロリーだけだから大丈夫」「〇〇ちゃんもお菓子食べてるけど痩せたって言ってた」と、
自分に都合の良い情報ばかりを意図的に選んで「甘いものを食べると太る」という認識自体を変えているか、
「甘いものは毎日じゃなくて週末1回だけにしよう」「甘いものはやめよう」と行動を変えるかどちらかを選択しています。
こうしたなんらかの方法で矛盾を解消することで、認知的不協和によるストレスを低減させることができるのです。
今の自分をしっかりと見つめ直そう!
上の例を見て、考え方を変えて認知的不協和を解消するという方法は、
つまり都合よく解釈して自分を正当化しているとも言えますし、
行動を変える努力をしないための言い訳をしていると感じたかもしれません。
自分を肯定するということ自体はとても大切なことです。
変えられない現実に直面した時、自分の思考を変えて現実に適応することは、自分を守ることになるからです。
でも、達成したい目標があったり、今の自分の現状を変えたいと思った時に、
自分を守るための思考の変換や正当化だけでは、
一時的には不快感は解消されるかもしれませんが、
根本的な問題は解決できないのではないでしょうか。
望ましくない認知を持ち続けて行動を変えようとしないのであれば、現状は変わっていきませんし、目標達成も遠のいてしまいます。
行動を起こすことによる認知的不協和の解消を目指すことを、心がけることも大切です。
どんな時に行動を起こすべき?
他人と比べるのではなく、自分の理想と現実をきちんと見つめ直し、自分の心に問いかけてみましょう。
自分で自分を無理に納得させていませんか?
この現状に本当に満足していますか?
このままの状態が続いた時、5年後、10年後のあなたは後悔はしませんか?
変わらないことはあるかもしれませんが、行動に起こすことで自分自身の中では必ず何かが変わってきます。
変えられることを変えることと、変えられないことを受け入れることとのバランスは難しいかもしれませんが、
自分の人生において、自分にとっての答えは、いつも自分の中で見つけるしかないんですね。
認知的不協和を活かすための具体例は?
①部屋を綺麗にする
駅のトイレなどで、「いつもキレイにご利用いただきありがとうございます」というような貼紙を見たことがありますよね?
これも認知的不協和の効果を利用したもので、
こう書かれていることで、トイレを汚く利用することに抵抗を感じ、少しでもキレイに使おうと思うわけです。
同じように、例えば自分の部屋をキレイにしたいと思えば、
「私の部屋にはゴミが落ちていない」
「私のデスクはいつも整理整頓されている」
などの貼紙をしてしまえば、部屋をキレイにしようという心理が働きやすくなります。
②ダイエットに活かす
同じように、ダイエットをしたい時にも、壁に目標や理想とする人物の写真などを貼っておくなどして、
自分の認知に「いついつまでに何キロ痩せる」「この人が着ているパンツが似合う体型になる」という刷り込みを行うことで、
夜食を食べたり甘いものを爆食いしたりするような、自分の思考と矛盾する行動を取りにくくなります。
③勉強をする
認知的不協和は、勉強にも活用できます。
「俺は学年トップになる」「次のテストで満点をとる」というような貼紙をしたり
何度も自分に言い聞かせ認知に定着させることで、
「学年トップになる人は、こんなに何時間もスマホで遊んでないよな」と、
よりスムーズに勉強に取り組むことが出来たり、
「満点取るには分からないところを放置しちゃダメだよね」と先生に質問にいけるようになります。
様々なところで認知的不協和が活用されています。
認知的不協和は誰にでも起こる心理現象でとても強力なものなので、
生活のあらゆるところで活用されています。
①マーケティングやキャッチコピーに利用されている
実は、この認知的不協和を利用したマーケティングなどは、世の中にたくさん存在しています。
「我慢不要!飲むだけで劇的に痩せるダイエット茶」というキャッチコピーの商品を買ってみようと思うのは、
「痩せたいけど食べるのは我慢したくない」という認知的不協和を解消したい人のために向けられています。
「短時間で確実に成績が上がる!」というような参考書が売れているとしたら、
「成績は上げたいけど時間はかけたくない」という認知的不協和が狙われているということでしょう。
矛盾する2つ以上のことが書かれていると、「嘘でしょ?」と、その矛盾を解消したくなり、
内容を確認するために本を手に取ったり、サイトをクリックしたりするのです。
あなたも心当たり、あるのではないでしょうか?
②苦手な人との関係改善にも活用できる
また、認知的不協和を活用すれば人間関係を改善できるとも言われています。
例えば、「苦手な相手に小さな頼み事をする」ことです。
苦手な人や仲の悪い人に小さな頼み事をして引き受けてもらうことで、相手は
「仲が悪いはずなのに、助けてあげた」という認知的不協和を解消するために、
「コイツ意外と良いところもあるし、仲良くなれるのかも」と、
認知を修正し、現実(行動)を改めるため、本当に関係性が改善される、というものです。
これは、苦手な相手に限らず恋愛心理学的なところでもよく紹介されているようですが、
恋愛に心理テクニック的なことを持ち込むのは、少なくとも今のところは私の専門外ですので(笑)、あまり深くは触れません。
気になる方はご自身で調べてみてくださいね。
③ブラック企業のやりがい搾取にも利用されている
明らかに待遇の悪いブラック企業で心身ともに辛い思いをしていても、
「やりがいがあるから」と我慢してそこに居続けてしまう人がいます。
せっかく就職活動をして入った会社がブラック企業だった場合、認知的不協和を起こさないように、
「この苦しみが自分の成長に繋がる!」
「待遇は悪いけど仕事は楽しい!」
「社会の役に立っている、自分は世の中に価値のある仕事をしている!」と、
ブラックであればあるほど、今の仕事にやりがいを感じやすくなると言われています。
ブラック企業にいる人ほど、様々な思考転換で自分に嘘をつき、現状維持という選択を続けてしまうんですね。
報酬が低いほど、楽しく感じる?
ここで認知的不協和を提唱した、アメリカの心理学者レオン・フェスティンガーの実験をご紹介しましょう。
実験の内容は下記の通りです。
①被験者につまらない単純な作業を1時間やってもらいます。
②その被験者を、1ドルもらえるグループと、20ドルもらえるグループの2つに分けた上で、
次の人に「この実験はとても面白いよ」と伝えてもらいます。
③被験者に、実際はこの実験はどうだったかと質問します。
そうすると、結果はどうなったと思いますか?
20ドルを受け取った被験者は「とてもつまらなかった」と正直に答えたのに対し、
1ドルを受け取った被験者は「意外と面白かった」と答えたというのです。
理由は簡単で、20ドル受け取ったグループは高い報酬でつまらない作業が正当化され、認知的不協和が解消されたため、
それ以上自分に嘘をついてこの作業を正当化する必要がなかったのに対し、
1ドルしかもらえなかったグループは、「つまらない作業に1時間も費やして、1ドルしかもらえなかった」という認知的不協和を解消するために、
自分の「つまらなかった」という認知を変えて「楽しかった」と思い込むことで、自分の不快な感情を少しでも解消しようとしたのです。
つまらない作業を1時間もやったのに1ドルしかもらえなかったと認めることで自分がみじめな気持ちになるよりは、
自分に嘘をつき、「楽しい作業だった」と現実をねじ曲げて解釈することで、自分の心を守ったのです。
この実験と同じようなことが、ブラック企業でも起きていますし、
私たちも、これまで普段の生活の中で、同じような体験を何度もしているはずです。
価値のないことに大切なエネルギーを費やしてしまったら?
認知的不協和の提唱者であるフェスティンガーは、
「予言がはずれるとき」という自著の中で、
アメリカに実際に存在したカルト集団へのスリリングな潜伏レポートを紹介しています。
1954年に大洪水が起き世界が滅亡するという予言を、その信者達は信じていました。
その予言は実際には当然外れているのですが、
その時、信者たちはどうなったでしょう?
予言が外れたことにより「信じていたことが間違っていた」と考えるのではなく、
「私たちの信仰によって滅亡を免れた」と、更に信仰を深めていったと言われています。
この傾向は、その予言のために仕事を辞めたり自分の財産を寄付するなどして、
自分の生活を投げうった熱心な信者ほど強かったそうです。
私たち人間にとって、自分がその価値を信じて大切な時間やエネルギーを費やしたものに、
本当は価値がなかったのかもしれない、嘘だったのかもしれないと考えた時、
それを認めてしまうと、強い認知的不協和が起こりストレスを感じてしまいます。
過去に費やした時間もエネルギーも失ったものももう戻ってこないので、
自分の心を守るために、人は自分の認知をねじ曲げてでも、
その活動は価値のあるものだった、自分の信じたことは嘘ではなかったと思い込むことで、
どんどん現状維持の罠に、がんじからめになっていってしまうというのです。
このような心理は、有名レストランに長時間並んだのにあまり美味しくなかった時や、
辛い恋から抜け出せない場合など、色々なところで働いています。
最後に。
今日は認知的不協和についてご紹介しました。
私たちが普段なんとなく感じていることを、心理学的に小難しく説明した、というような気もしますが(笑)、
私たちの生活のありとあらゆるところで誰にでも起こる心理現象だからこそ、
知っておいて損は無い、身近な心理学としてなかなか面白いのでは無いかと思います。
認知的不協和が起こった時、私たちはなんとしてでもそれを解消したくなるものです。
多くの場合、行動を起こして努力をして現状を変えるよりも、
その現状に対する認知だけを変える方が簡単です。
私たちは本能的に、楽な方法を取ってしまいがちな生き物なのです。
しかし、変えられない現実や不都合な真実に向き合った時に、
思い込みの力というのは、自分を守る強力な武器でもあります。
自分を肯定し、自分の人生を肯定し、前向きにこれからを生きていくために、
認知の変換や思い込みが必要な時もたくさんあるでしょう。
でも、あなたが無理に受け入れようとしているその現実は、本当に変えられないものでしょうか?
あなたがそう解釈しているだけではないでしょうか?
私たちは誰ひとりとして例外なく、自分達の解釈の世界で生きています。
変えられないと思っている現実は、あなたが行動を変えることで、実は変わっていくのかもしれません。
まずは、自分自身の日々の無意識な選択をぼんやりと見過ごすのではなく、
きちんと自分の心の声を聞いて、自分の選択を意識することが大切だと思います。
認知的不協和は誰にでも自然に起きるものですが、それをどう活かすかはあなた次第です。
私は今、認知的不協和を解消したがっている!
この人に、認知的不協和を利用されようとしている!
そんなことに気付けるようになれば、もっと色んな選択肢を考えられるようになるかもしれませんね。
ここまで読んで下さりありがとうございました。
神田華子でした。