それってダブルバインド?あなたを苦しめるズルいコミュニケーションの正体を知ろう!
「分からないことがあったら何でも聞いていいからな」と上司に言われたので
本当に分からないことを質問したら、「そんなの調べたらすぐ分かるだろ!」と怒られた。
「この会議では特に何も発言しなくていいからな」と言われたので何も言わずにいたら、
「お前ほんとに役に立たないな。何のために会議に出てたんだ。」と嫌味を言われた。
こんな風に、イヤ~な気持ちになったという経験、あなたにもないでしょうか?
これは、「ダブルバインド」と呼ばれるコミュニケーションで、2つまたは複数の矛盾したメッセージを発し、
受けた方がどちらのメッセージに従っても罰を受けたように感じて、身動きが取れなくなるという状態です。
こんな状況に心当たりがある!という方は、どのように対処していますか?
ひょっとして、なんで怒られたんだろう、また怒られてしまった、なんで私はこんなに何も器用に出来ないんだろう、私が何をしてもダメだからこんなに怒られるんだ・・・と自分を責めたりしていませんか?
もしそうだとしたら、あなたは決して悪くないんですよ。
相手が、意識的にしろ無意識的にしろ、自分勝手でズルいコミュニケーションであなたをコントロールし、自分の思うように物事を進めようとしているだけなんです。
残念ながらそういう人が世の中にいる、あなたの周りにもいる、という事実は変えられませんが、
まずは、「あの人のこれって、ダブルバインドかも?」と、日常に潜むダブルバインドに気付けるようになることが重要です。
ただひたすら我慢するだけではなく、ダブルバインドについて知ることで、
「今、自分はダブルバインドを受けているからこんなに苦しいんだな」と意識できるようになりますし、不必要に自分を責めることもなくなります。
そのうえで、どういうコミュニケーションをあなたが取るか、という対策を考えれば良いのです。
また、これまで無意識に相手にダブルバインドをかけていたかも、と思った方は、
これを読んで、ダブルバインド的なコミュニュケーションを控えることで、相手との健全な人間関係の構築に役立てましょう。
それでは、早速一緒にダブルバインドについて勉強していきましょう。
ダブルバインドとは?
ダブルというのは二重に、バインドというのは、バインダーという物で分かるように、束ねる、拘束するという意味の英単語です。
2つの矛盾したメッセージを受けた人が、どちらのメッセージに従ってよいか分からず身動きが取れなくなる、
この状態を、日本語で二重拘束という意味の、ダブルバインドと呼んでいます。
たとえば最初の例だと、「分からないことがあったら何でも聞いて」という最初のメッセージの後に、
「そんなの調べたらすぐに分かるだろ(=何でも聞くな)」と、矛盾した2つ目のメッセージを伝えています。
また、この矛盾したメッセージは必ずしも言語化されたものである必要はなく、例えば上の例で実際に質問に行ったときに、
ため息をつかれたり無視をされたりという非言語のコミュニケーション、すなわち表情や態度で矛盾するメッセージを示された場合も、
受け取った側はどちらのメッセージに従うべきか混乱し身動きが取れなくなる、ダブルバインドとなります。
聞いていいと言われたから聞きに行ったのに怒られ、怒られたから、良く分からないところを曖昧にしたまま進めると、
今度は、なんで分からないまま勝手に進めるんだ!と、また怒られ・・・。
こんなズルいコミュニケーションが、私たちの現実世界では多発しているんです。
最初は「え~なんでも聞いていいって言ったのに・・・」と矛盾を感じるでしょうが、逃げ場がないのでただ我慢するしかなく、
だんだんと、どうしていいか分からなくなり、苦しくなり、いつも怒られ続けて、ついには自分が悪いような気さえしてきてしまうんですね。
私がこの「ダブルバインド」という言葉を知ったのは、子育てに関することでした。
親が、いつまで経っても公園から帰ろうとしない子供に「もうお母さん帰るからね!勝手にしなさい!」と言っておきながら、
帰らずに子供を待ち続け、「いつまで遊んでるの!いい加減にしなさい!」と怒る。
これも、実際は良くないのに勝手にしろと言っておいて、本当に好きなように遊んでいたら怒るという、ダブルバインドです。
このように、親子や学校、職場でこのダブルバインドは起きやすく、上位ポジションにいる人が使うことで、このダブルバインドのコミュニケーションを受けた相手は、逃げ場がなくなってしまいます。
シーン別︰ダブルバインドの例を見てみよう。
はっきりと矛盾しているメッセージを言葉にされると分かりやすいものですが、非言語メッセージが相手に伝える内容というのも想像以上に大きいものです。
例えば、大好きだよと言っているのに近づこうとすると顔をこわばらせる、好きなようにしていいよと言っているのに、ため息をついたりイライラしている、などです。
そういった非言語的なコミュニュケーションも含め、もうすこしダブルバインドの例を見ていきましょう。
シーン①親子関係
■会話例1:
「怒らないから正直に言いなさい。」
↓
正直に言う。
↓
「なんでそんなことしたの!」と怒られる。
↓
「怒らないって言ったじゃん!」
↓
「あなたのために怒ってるのよ!」
↓
逃げ場がない・・・。
■会話例2:
学校でいじめられているから行きたくないと打ち明ける。
↓
「あなたのことが一番大切だから学校に行かなくていいよ」
↓
ほんとに行かない。
↓
親がイライラしている、またはため息をついて悲しそうにしている。
↓
学校に行っても行かなくても辛い思いをして、どうしていいか分からなくなる・・・。
シーン②職場関係
■会話例1:
朝「この仕事は絶対今日中に終わらせてくれ。終わるまで帰るなよ!」
↓
夜「いつまで残業してんだ!さっさと帰れ!」
↓
どっちだよ・・・。(イラッ)
■会話例2:
「新人だからって遠慮しないでどんどん思ったことを言ってくれ。」
↓
勇気を持って意見を出す。
↓
ため息交じりに「君の意見を言われても、経験もないしなぁ・・・。」
↓
やっぱり出しゃばらない方がいいかなと、何も言わないでいる。
↓
「そんな消極的な姿勢じゃいつまでたっても成長しないぞ!」
↓
どうしたら良いんだろう・・・。
ダブルバインドの悪影響とは?
相手の言っていることが二転三転している、言っていることとやっていることや、実際の反応が違う、という状況では、
受けた側は本当はどっちなんだろうと相手の本心を常に推測するしかなく、どちらを選んでも罰を受けているように感じる、逃げ場がないように感じることで、精神的に大変なストレスがかかります。
このダブルバインドというコミュニケーションパターンは、もともと統合失調症の家庭を調査している際に発見されたものです。
統合失調症というのは、感情や思考がまとまらなくなり、幻想や妄想といった症状が起こる精神疾患です。
先程説明したように、ダブルバインドが発生している環境というのは非常にストレスフルで、長くその状況下に置かれた人が統合失調症に似た症状を示すと指摘されました。
ダブルバインドを受けていると、常に混乱し、だんだん正常な判断ができなくなります。
怒りや悲しみといった自分の感情を無理に抑え込み、過度に他人の顔色を伺い、徐々に主体性を見失っていきます。
自尊心や自己肯定感はダダ下がり、自信を持つこともできず、次第にストレスが蓄積されていき、
最終的には精神疾患を引き起こしたり心身に異常をきたすことになります。
・・・怖いですね。
自分のコミュニケーションの取り方がダブルバインドになっている、とハッとした方は、今すぐにでもコミュニケーションの取り方を見つめなおしてください。
そして、自分がまさにダブルバインドを常にかけられているという状況下にらっしゃる方。
辛いですよね。悔しいですよね。
まずは、自分を責めることをやめてくださいね。
あなたが悪いわけではありません。
その上で、相手を変えることは出来ないかもしれませんが、自分で出来る対処法を知ることで、状況は少し改善するかもしれません。
ダブルバインドへの対処法。
「あの時こういったじゃないですか!」と、強気で言い返せたらスッキリしますよね。
でも、揉めそうですね。
相手の矛盾を明確に指摘出来るときは、冷静に丁寧に指摘しましょう。
上のように感情的にならず、「恐れ入りますが」「念の為ですが」といったような枕詞を使って、丁寧に、客観的に、状況を伝えるようにしましょう。
でも、恐らくほとんどの人は、そんなことが出来ないから悩むんですよね。
私も以前はそうでした。
理不尽なことを言われても、「ハイ・・・」「すみませんでした・・・」と、悔しい気持ちを握りしめて引き下がり、ストレスが蓄積されていくだけの毎日。
そんなあなたのための、ちょっとした対処法をご紹介しますね。
対処法①まずは相手の矛盾に気付く。
重複しますが、相手のダブルバインドに気付く、まずはそれが本当に一番重要なことです。
相手の言動を冷静に分析した上で、矛盾を認識したら、ダブルバインドの可能性を疑いましょう。
相手をコントロールするコミュニュケーション方法として、故意にダブルバインドを使っている場合もありますが、無意識で行っている場合も多いです。
当事者同士では、ダブルバインドをかけていることも、かけられていることも、意外と気付かなかったりします。
まずは相手の矛盾に気付く、ダブルバインドを認識するということが対処法の第一歩です。
ね、あなたが悪いわけではなかったでしょう。
対処法②自分が最初に解釈した受け止め方以外の考え方を想像してみる。
起こった事象である事実と、自分の解釈、すなわち受け止め方というのは違うものです。
その受け止め方を変えることで、結果となる感情が変わってきます。
例えば、何でも言っていいと言われたのに実際に意見したら怒られた、ということが事実として発生したのであれば、その事実に対して2つ以上の解釈を考えてみましょう。
物事の見方というのは、常に1つだけではなく2つ以上存在しているものです。
例えば、「怒られたのは私が仕事が出来ないからだ。嫌われているからだ。」という風に解釈しているとしたら、
「何か嫌なことがあって機嫌が悪いのかも。タイミングが悪かったかな。」と別の見方をしてみたり、
「私の伝え方が気に入らなかったのかも。次はメールにしてみようか。」と考えることもできます。
「前に言ったことを忘れてるのかも。最近忙しそうだしな。/最近忘れっぽいからな。」という風にも考えられます。
このように、相手側の目線で色々な可能性を想像力を働かせて考えれば、色々な解釈、受け止め方ができますよね。
受け止め方を変えると、その結果としての感情が変わってきますので、是非心がけてくださいね。
対処法③相手に確認する。
ダブルバインドへの対処法、また予防法として、スモールステップで相手に確認する、ということも出来ます。
「もう好きにしていいよ」とイライラした口調で言われたのであれば、「あまり良くなさそうだけど、じゃぁ本当に〇〇にしていいの?」と確認する、などです。
職場での例えでいうと、上司に聞きたいことがあるのに怒られたため、質問できずに進めるしかないという場合であれば、
ある程度進めた段階で、「この部分が分からなかったので、先日ご指導いただきたかったのですがお忙しかったようですので、一応このように解釈して進めましたが、ご確認いただけますか」
と、経過報告をしたり、または、
「誤解のないよう念のためですが、〇〇ということですよね?」と相手の本心を確認したりすることです。
別の例だと、「今日中に終わらせろという指示ですが、今日はノー残業デーに設定されています。他の業務もあるので、終わらない場合は明日午前中の提出でも良いですか?」
というように、客観的に状況を説明した上で相手の要求が実際には何なのか、相手に確認してみるのです。
話すたびに毎回毎回イヤな気持ちになる相手とは、接触回数を減らしたくなる気持ちは分かります。
でも、一度のダメージを少なくするためにも、そして上司の下手なコミュニュケーションせいで、こちらの仕事が出来ていないとレッテルを貼られないためにも、
このスモールステップのコミュニケーションを是非取り入れましょう。
ちなみに今の私は、「あの時〇〇とおっしゃっていたので、念のため確認しました」など、さら~っとほのめかすようにしています。
自分のことを、カメラを通して画面の中にいるドラマの登場人物だという風に客観視して、
「理不尽に怒られている中、あえて空気を読まずにダメもとで主張してみたテヘペロキャラ」と想像してみると、少し言いやすくなります。
図太くなったものです。(テヘペロ!)
対処法④周りの人に相談してみる。
ダブルバインドのコミュニケーションパターンが癖になっている人は、同じようなコミュニケーションを他の人にも取っている可能性が高いです。
家族や友人や同僚など、同じ被害にあっていると思われる仲間がいる場合、どうやって気分を切り替えているかを聞いてみるのも良いでしょう。
自分では気づかなかった捉え方や可能性に気付けるかもしれませんし、矛盾と思っていたことに実は意味があった、ということもあるかもしれません。
ここでの注意点は、「決して愚痴を言い合うためではない」ということを忘れないこと。
愚痴を言い合ってスッキリするという感覚は、その場しのぎなものです。
そこから何かしら自分の学びや発見、気持ちの切り替えにつながるように、心がけてください。
特に親子関係でのダブルバインドについては、こちら側の努力だけではどうしても関係が改善されないケースもあるでしょう。
子供は親の所有物ではありませんが、残念ながらそのように子供を扱っている親がいるものです。
上に書いたようなな対処法でコミュニュケーション改善を図ろうとしたものの、
どうしても辛くて一人ではどうしようもないと感じた時には、信頼のおける第三者や、専門機関に相談してみてくださいね。
ダブルバインドにならないように気を付けること。
自分のコミュニュケーションがダブルバインドになって相手を苦しめているかもしれないことに気付いた時は、以下のことに注意しましょう。
①自分の本心を認識する。
自分が無意識にダブルバインドをかけていた場合は、まずは「本当に自分が伝えたいメッセージを自分で確認する」ようにしましょう。
相手に良い印象を持ってもらうために実現できない都合の良いことを言ったり、相手の本心を引き出すために罠をかけるような甘い言葉を使っていませんでしたか?
自分の考えや要求をきちんと自分で認識したうえで、本心では思っていないことや、実現できないこと、してほしくないことであれば、安易に相手に伝えないことです。
また、とはいえこちらも人間ですから、結果として矛盾してしまったなと感じたのであれば、
素直にそのことを認め、矛盾した言動で混乱させてしまったことを謝り、状況を説明した上でこれからどうするかを話し合うなどして、関係を修復しましょう。
②言葉を省略しない。
自分では筋の通ったメッセージを発信しているつもりなのに、相手が矛盾を感じてしまう場合は、あなたのメッセージが曖昧であるケースがあります。
曖昧というのは、あなたの要求値や状況など、様々な背景が言葉として省略されているということです。
「会議では何も発言しなくていい。(でも、言われなくても議事メモくらい取るよな)」と、
心の中だけで思うのではなく、きちんと言葉にして相手に伝えましょう。
「分からないことは聞いていいよ。(でも、マニュアルに書いてあることは一通り見てから来てね)」と、
「マニュアルを読むのは当然」という前提を当たり前のものとして、かっこの部分を省略するのではなく、マニュアルは読むようにとはっきり伝えてください。
自分と相手は違う、感じ方や捉え方はみんな違う、という原則を忘れずに、
言葉に出して伝えることでしか、相手に自分が思っていることは伝わらない、と心得ましょう。
最後に。
相手が思っていることは目には見えないものです。目には見えないのに、私たち人間は相手の口調や表情から、いろんなことを想像できてしまいます。
だからこそ、自分では意図していなかった受け止め方を相手がしてしまっていたり、気付かないうちに相手の心を追い詰めてしまったりしてしまうんです。
人間関係って、本当に難しいですよね。
ダブルバインドというコミュニケーションがあるということ、日常の色々なところで発生している可能性があるということを知ることで、
なんだかこの人に何か言われると毎回嫌な気持ちになり落ち込んでしまう、イライラしてしまう、という気持ちの原因が分かる、キッカケになるかもしれません。
私たちの想像力を、もっと自分のプラスになるように使えるようになるといいですよね。
今日のこの記事が、あなたがダブルバインドから抜け出す第一歩となれれば嬉しいです。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
神田華子でした。