自分のことは話しちゃダメ?カウンセラーの自己開示について。
先日読んでいた心理カウンセラーのテキストの中で、カウンセラー自身の自己開示について記述がありました。
その中では、「カウンセラーは自己開示をしてはならない」と説明されていました。
自己開示をしてはならないというのはつまり、プライベートな情報を含むカウンセラー自身のことについては、家族構成から恋人の有無、年齢、カウンセラーになったきっかけなど全般的に、相談者さんに教えてはダメですよ、ということです。
また、カウンセラーの感情を共有することも自己開示の一種とされています。
私自身は、自分がこれから悩みを相談する相手がどんな人なのか気になってしまうし、それが分かった方が親近感が湧くので良いかなと思っていたので、驚いてしまったんですね。
それで、気になったので色々と調べてみたところ、カウンセラーの自己開示についてはやはり色々な考え方があって、ずっと議論され続けている問題のようです。
結論として昨今では、適切なタイミングで、適切な内容のカウンセラーの自己開示は、カウンセリングにおいて効果的な面もある、ということのようです。
カウンセリングスタイルや方針にもよると思いますが、
どこかのカウンセリングルームに所属するのではなく、少なくとも私のように個人でやっているカウンセラーについては、自己開示はしている方がほとんどのようです。
というか、個人という看板を背負っているので、ある程度は説明が必要不可欠ですよね。
では、どうしてカウンセラーが自己開示をしない方がいいとされてきたのか、理由を見てみましょう。
カウンセラーが自己開示をしない方がいい理由。
カウンセラーが自己開示をすべきでない理由には下記が挙げられます。
①焦点が相談者からカウンセラーにうつってしまい、相談者の自己探求の妨げとなってしまう。
確かに、お金を払ってカウンセリングに来ているのに、カウンセラーが自分の話ばかりしていたら嫌ですよね。
友人同士でも、こちらから相談したのに相手にすぐに話題をハイジャックされ、自分はまったく話せなくてモヤっとしたという経験もあるかもしれません。
そういう意味で、カウンセラーからの過剰な自己開示は不要といえると思います。
②相談者が自己の思考を投影しやすいように、カウンセラーは相談者の鏡になるべき存在である。
「鏡になる」という表現が私は最初はよく分からなかったのですが、
カウンセラーが傾聴し相談者さんの発言を受け止めそのまま繰り返したりすることで、自分の気持ちを俯瞰的に見ることが出来るようになるということです。
ちなみに「俯瞰的に」というのは、「高いところから見下ろすこと」の意味で、一歩引いて客観的に見る、全体を見渡す、長期的な視点で見る、などの意味で使われる言葉ですね。
自分の口元についたごはんつぶに気付かないように、一人では気付けない自分の感情や考え方に、カウンセラーを通して気付けるようになるために、余計な先入観となるようなカウンセラー個人に情報は邪魔になってしまう、という考え方です。
これについては別の論文も調べてみたのですが、確かに色々な方の実験において、
カウンセラーの自己開示は「親近感には優位に働くが、信頼感においては優位性はなかった。」というような結果が出ているようです。
確かに、言われてみれば納得ですね。
そもそも信頼感というのは親近感だけで簡単に得られるものではなく、何度も対話を繰り返し、少しずつお互いに築き上げていくものですね。
また、感情面での自己開示については、適切なタイミングと方法で行う場合はカウンセリングを進める上でプラスの効果も見られるということです。
感情面で自己開示をしない、というのは、あなたが辛くて悲しくて泣いているのを、無感情に冷徹に見守っているということではありません。
あなたの気持ちを受け止め、「辛かったんですね、悲しいかったんですね」というのは、自己開示ではなく受容・共感です。
これは、カウンセラーの多くが実践していると思います。
でも、もしそこでそのカウンセラーが、「私もあなたをそんな風にぞんざいに扱う相手に、怒りの気持ちがわいてきています」と表現したとしたら、それがカウンセラーの感情面の自己開示となります。
あなはたそのようなカウンセラーに対し、どのように感じますか?
家族や友人だとしたら、一緒に泣いてくれたり一緒に怒ってくれる存在というのは、ありがたいし、それだけで心が救われたりすることもありますよね。
逆に、相手がすごく怒ってくれたおかげで、逆に自分が冷静になれたりすることもありますね。
カウンセラーとしての私自身の今の考えは、カウンセラーの感情面を共有することにより、相手に安心感や仲間意識のような親近感を一時的に与えることはできるかもしれませんが、
相手の感情や考え方に共鳴することになり、その考えを強化してしまうことにもなるのでは、という危惧もあります。
もちろん、嬉しいことであれば強化されて良いと思うんですけどね。
適切な方法で適切なタイミング、というのは難しいですね。
まだまだ勉強が必要です。
③カウンセラー自身の弱さを見せることで、相談者のカウンセラーに対する信頼感にネガティブな影響を与えてしまう。
これについても人それぞれなのではと思いますが、確かに留意しなければいけない点ですね。
私自身は、相手も同じように傷つき悩むこともある人間なんだと思う方が、相談しやすい気がしますが、
相談する相手には完璧な姿を見せてほしいと思う人もいるかもしれません。
もちろん、年齢や家族構成、子供の有無で、「あなたは経験していないから分からないでしょう」と思われることもあると思いますが、
そんな風に考える方というのは、そもそも自己開示を拒否したところで、カウンセラーの色々なアラを探してくるのではと思います。
信頼関係を築くうえで、相手の年齢や肩書、特定の分野での経験値を重視するのであれば、ピンポイントで自分にあったカウンセラーを見つけた方がお互いのためかもしれません。
例えば、何歳以上で子育て経験のあるカウンセラー、とか、離婚経験のあるカウンセラー、とか、精神疾患経験者のカウンセラー、とかですね。
論文や実験では完全には論証できない、人それぞれ違う心の中という問題を取り扱う中で、相手の心境を見極めて信頼関係をどのように築いていくかというのは、
やっぱりカウンセラーの知識と経験値によるところが大きいと思います。
④公私混同を防ぐ。
カウンセリングというのはとても特殊な空間で、カウンセラーと相談者さんというのは特別で専門的な関係であるべきです。
カウンセリング以外の個人的な関係、例えば友人関係や恋愛関係などですが、そのように二重に関係を持つことを二重関係と言いますが、二重関係を持ってしまうと、カウンセリングがうまく進まなくなってしまいます。
例えば相手に好意や特別な感情があると、嫌われるのが怖くて本音が言えない、相手のことが気になって自分の問題に集中できない、利害関係を気にして言いたいことが言えない、など、考えてしまいますよね。
そうやって、悩み事を本音で話せなくなってくると、相談者さん自身の問題解決の妨げになってしまい、カウンセリングの破綻、カウンセリング関係の終了に繋がってしまいます。
これは、カウンセリングが終了した後も同様に、カウンセラーが相談者さんと個人的な関係を持つことは禁止とされています。
この理由は、再度カウンセリングを受ける可能性があること、また、二重関係を持ちたい相談者さんが、問題は本当は解決していないのに無理にカウンセリングを終了させようとしてしまう、などが挙げられています。
悩みを親身に聞いてくれる相手に特別な感情を抱くことはあるかもしれませんが、それは陽性転移とも呼ばれるそうで、カウンセラーとしては注意すべきものです。
カウンセラーへの恋愛感情や嫉妬等の特別な感情が芽生えると、カウンセラーの個人的な情報をもっと詳しく知りたいと感じるのは自然なことかもしれませんが、
このように、カウンセラーには二重関係の禁止という守るべき倫理があるので、公私混同を防ぐために、プライベートな情報は開示すべきでない、とされています。
自分への信頼感を感じるというのはカウンセラーにとって大変嬉しいことですが、やっぱりカウンセラーにとって一番嬉しいことは、相談者さんが自分で自分の問題を解決する力を身に付け、生き生きとした生活に戻れることだと思います。
信頼のおけるカウンセラーであれば、あなたの好意をやすやすと受け入れて二重関係を築くようなことはしないはずですので、
もしもあなたが今カウンセリングを受けていて、カウンセラーに特別な好意を持っているのであれば、それはカウンセリング内の特別な関係であると受け入れた上で、その気持ちを糧に、自分の生活を改善する方向に、努力のベクトルを向けてくださいね。
最後に。
「プライベートを開示しない」という倫理に対し、最初は驚いていた私ですが、調べていくうちに何度も何度もうなずき納得し、カウンセラーという立場の重さを改めて学ぶことができました。
単なる、友人への愚痴聞きや悩み事相談へのアドバイスとは、まったく違うものなんです。
SNSの普及で距離感を錯覚してしまいそうになることがありますが、カウンセラーの目的というのは、相手に好かれることが目的でもなければ、友達になることが目的でもない。
相談者さんの問題解決、そのためだけに結ばれている特殊な関係なんですね。
その原則やカウンセラーとして守るべき倫理観は忘れずに、中立という立場は守りつつも、
ずっとあなたを応援しているし、いつでもここにいますよ、という親近感や安心感を与えられる、信頼感をきちんと築ける、そんなカウンセラーになりたいなと、改めて思ったのです。
これから出会うかもしれないあなたとの関係も、そんなものでありますように。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
神田華子でした。